神奈川県愛甲郡愛川町棚澤。国道沿いの、決して人通りが多いとは言えない場所に、開店の1時間以上前から歩道に人が並ぶ店がある。もつ煮込み専門店「もつ乃」。営業は11時から、売り切れまで。
店を回すのは女将と、途中から入るスタッフ1人。もつ煮込み定食は900円。ご飯は「中」を頼んでも、丼から山が盛り上がって出てくる。
そして、売り切れて店を閉めたあとに、この店の一日はもう一つの山場を迎える。段ボールで届いた120キロの豚もつを、女将が一人で捌く。
動画の目次
時間 | 内容 |
|---|---|
0:00 | ダイジェスト |
0:48 | 本編スタート(神奈川県愛川町「もつ乃」) |
1:12 | 6時51分、女将が出勤 |
2:21 | 4時半起き、子どもを実家に預けてから |
4:51 | 「一人でできるように考えた方が」 |
5:49 | 「最初は毎日泣いてた」 |
6:53 | カレーもつ煮を仕込む |
7:15 | 醤油・カレー・味噌の3種 |
11:02 | だし巻き卵を巻く |
15:26 | 開店前、行列が伸びる |
16:36 | メニュー |
19:02 | 提供シーン |
24:41 | カレーもつ煮 |
32:56 | 売り切れ、本日終了 |
33:15 | 120キロのもつが届く |
35:47 | なぜ8〜9センチで切るのか |
37:18 | 「お店の色は変えたくない」 |

6時51分出勤。一日は、前日のもつ煮に火を入れることから
撮影日の起床は4時半。5時半に家を出て、まず子どもを実家に預ける。土日は保育園が休みだからだ。店に着いたのは6時51分だった。
今日は4時半に起きて、5時半に家を出て、子どもを実家に送って、そこからここまで来ました
前夜は金曜ロードショーの『ホーム・アローン』を途中まで見てしまい、睡眠は5時間半。「寝ないといけないのに」と本人も苦笑する。
最初の仕事は、前日から仕込んであるもつ煮に火を入れることだ。この日は年末で予約が多く、仕込む量も増えていた。

米は12キロを炊く。「週末は大盛りご飯を食べたい人がいっぱいいるんですよね」。漬物は白菜の浅漬け、大根の酢漬け、大根の醤油漬けの3種類。これは1人1皿まで無料で出している。
醤油・カレー・味噌──3種類を毎日炊き分ける
もつ煮込みは3種類ある。醤油、カレー、味噌。初めて来る客は味噌を選ぶことが多いという。
人それぞれ結構すきずきで、味の好みが分かれるんですけど、最初来る人はみんな味噌を頼む方が多いかな
醤油食べたら醤油がいいって言って、醤油しか食べない人もいるし。3つの味を作って良かったなって感じ
隠し味は刻みニンニクだ。
パンチを効かせるために。味にメリハリができるんです。一口食べたらご飯食べて、また一口食べたいな、という願いを込めて作っています
味見の基準は、感覚的でありながら具体的だった。
いつも味見してるから、いつもの六角形からはみ出てるものがないか、凹んでるものがないか

「一人でできるように考えた方が、1000円を超えないで済む」
この日の予約は70〜80人前。人を雇えば楽になることは、本人がいちばん分かっている。それでも増やさない理由は、値段だった。
やってもらったら楽なことはいっぱいあるんだけど、やってもらうと、その分に見合った対価を支払わないといけないから。だったら一人でできるように考えた方が、もつ煮込み定食が1000円を超えないで済むかなって
今いろんなものが高いから、仕入れだけでも高いのにさ。自分が1.5倍速で動いて、その分だけね……人の一人分とか半分くらいになれば
負担を引き受ける先は、常に自分に向いている。
結局は自分じゃない? だから、何でも人のせいとか物のせいとかにはしたらだめかなって思ってて
「最初は毎日泣いてた」
独立して強くなった実感はあるか。そう聞かれた女将の答えは率直だった。
最初はお店始まった時なんて、毎日泣いてたもん。お客さん来なくてだし、もう仕込みにもすっごい時間かかるし
また一つ悩みが解消されたらまた一つ悩みが出てきて。結局は全部自分だから。自分が変わらないと何も物事は変わらないから
子どもは1歳8ヶ月。出産の2週間前まで、店は完全なワンオペだった。「重たいものとか持ったりとかしても、そのまま生まれんじゃないかと思って」。
卵焼きは1本100円。焼きながら電話を取る
11時前、スタッフが出勤してだし巻き卵を焼き始める。プレーン、ネギ入り、紅生姜入り、そして甘い卵焼き。どれも100円だ。
焼いている横では、翌日分のもつ煮の仕込みが並行して進む。卵を巻きながら予約の電話を取る場面もあった。焼き上がった卵焼きはアルミホイルで保温し、小鉢に一つずつ盛り付けていく。

11時開店。「中」でも茶碗からあふれる
開店を待つ列は、この日も1時間以上前から伸びていた。注文は食券制。買った食券を木のトレーに置いて待つ。ご飯のサイズは選べる。
メニュー | 価格 |
|---|---|
もつ煮込み定食(中) | 900円 |
もつカレー(中) | 900円 |
2種盛り定食(中) | 1200円 |
単品もつ煮込み(大) | 900円 |
たまご焼き(だし巻き/ネギ入り/紅しょうが/甘い) | 各100円 |
漬物 | 無料(1人1皿) |
「大盛り」は写真で想像するより大きい。丼から白い山がせり上がる。
こんな量が来ると思ってなかったっす
味の評判は、量に隠れがちだが確かだ。もつは8〜9センチの大ぶりで、それでも簡単に噛み切れる柔らかさになっている。
美味しいですよ。大判ですし、癖もなくてすごいおいしいです。すごい食べやすいですし、味もしっかりしてるし
柔らかくて、癖もなくて、本当に来たほうがいいです
客は近所ばかりではない。この日は藤沢から、兵庫・岡山・広島から来たという3人組もいた。駐車場は2台しかなく、埋まっているときはハザードを出して待つよう、女将が一人ずつ案内していた。

売り切れ、そして120キロ
ラストは「大体遅くても13時半、14時」。この日は売り切れで営業終了となった。
片付けが一段落する頃、段ボールで豚もつが届く。この日は120キロ。1日に使うのが50〜60キロだから、2日から2日半分ということになる。
10キロ入りの袋が12。女将はタイマーで時間を計りながら捌いていく。
1袋10キロを5分半で切れればいいかなって感じ。だからそれかける12、1時間半以内に終われば
この日の記録は79分23秒だった。
業者にカットを頼むこともできる。それでもしないのは、サイズが理由だ。
一社は3センチカット、最近できた会社でも6センチカットまで。うち的にはこのぐらい、8センチから9センチぐらいはやっぱり食べ応えがある
しゃぶしゃぶの一枚肉を口の中に頬張ってるイメージ。もつを食べてもらえたら口の中がハッピーになるなぁって思って
切るだけではない。脂に付いた繊維質など「余計なもの」を、切りながら選別して捨てていく。
見落としてるのもあるから、茹でこぼしし終わった後、煮込んでる時とか混ぜてる時とかに、そういうのが出てきたらすぐに取る。あとはよそってる時まで全部気をつけて

もつを切り終えたら、翌日分のねぎを切る。ねぎは前日に切って一晩寝かせる。「絡みが落ち着くんですよ」。最後に米を計って仕込み、この日の作業が終わったのは16時40分。外は雨だった。
「お店の色は変えたくない」
これからどうしていきたいか。その問いへの答えは、拡大とは逆を向いていた。
これからまたさ、大きくしたり、従業員がいっぱいいるチェーン店みたいなのになっちゃったら、うちのお店のいいとこが消えちゃうし。この規模でやりたいかなって
ただし、売り切れで食べられない人がいることは気にしている。「多くの人に提供できるシステムを考えていかないと、やっぱり(お店の)色は変えたくないですね」。
最後に、今日の一言をと促されて出てきたのはこれだった。
楽しくハッピーな場所を作っていきたいです。本当に色を変えることなく、たくさんの人に知ってもらって、愛してもらえるように。精進します
店舗情報
店名 | もつ乃 |
住所 | 神奈川県愛甲郡愛川町棚澤877-5 |
営業時間 | 11:00〜売り切れまで(テイクアウト受け取りは〜16:00) |
定休日 | 月曜・木曜 |
電話 | 080-5209-8775 |
電話予約受付 | 7:00〜9:00/14:00〜20:00 |
駐車場 | 2台 |
支払い | 食券制 |
テイクアウト | 可(電話予約可。6人前などまとめての注文も受けている) |
営業時間・定休日は変更されることがあります。売り切れ次第終了で、遅くとも14時頃にはラストになる日が多いようです。訪問前に最新情報の確認を。
動画で見る
ここまで書いてきたが、文字にすると必ず抜け落ちるものがある。
1袋10キロのもつを5分半で切っていく手の速さと、そのあいだ一度も止まらないリズムは、映像でしか伝わらない。
120キロの仕込みが始まる33:15以降、そして8〜9センチにこだわる理由を語る35:47あたりは、ぜひ動画で!!




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