「ラーメンショップ」の朝──町田・山村と加須・北川辺、夜が明ける前から男たちが並ぶ

東京・町田の「ラーメンショップ山村」は朝6時開店、店主の睡眠は1日2時間。埼玉・加須の「ラーメンショップ北川辺店」は朝4時50分開店、創業24年。夜が明ける前から作業着の男たちが集まる、2軒のラーショの朝に密着した。

東京都町田市木曽東。午前2時52分、1台の車が停まり、シャッターが上がる。カウンター8席の「ラーメンショップ山村」。開店は朝6時だ。

埼玉県加須市柳生。田んぼしかない道沿いにポツンと建つ「ラーメンショップ北川辺店」の開店は、さらに早い朝4時50分。店主は毎朝3時に起きる。創業は2002年、今年で24年になる。

どちらも「ラーショ」——ラーメンショップの赤い看板を掲げる店だ。そして両店とも、夜が明けきる前から、作業着の男たちが吸い寄せられてくる。

Fun Eatsが公開した約55分の密着動画から、2軒の「朝」を書き起こした。

動画の目次

時間

内容

0:00

【町田】ラーメンショップ山村

0:54

店主の経歴──車屋、建築、そして飲食

1:44

睡眠2時間

2:45

スープに入る「りんご」

4:47

夜営業を始めた理由

7:15

寸胴1個とガス代

8:41

麺150g、ライス300g

14:48

常連たちの朝

25:28

【加須】ラーメンショップ北川辺店

29:01

炊き出しスープ

30:01

加須ネギの仕込み

31:21

隣でカフェも開ける

36:53

福島から来た客

45:49

現場前の一杯

53:23

店主の想い

【町田】ラーメンショップ山村──開店は朝6時、店主の睡眠は2時間

店主の加藤さんが店に着くのは午前2時52分。シャッターを開け、照明をつけ、そのまま仕込みに入る。開店は6時。逆算すると3時間しかない。

車屋と建築と飲食、それぞれ30年

意外なことに、加藤さんの本業は車屋だという。建築も30年ほどやっている。そして飲食も30年。マルチタスクということですか、と聞かれて、本人はあっさり認めた。

そう、マルチなんだよね

山村自体は、まだ開店したばかりの店だ。オープンは9月12日。

「毎日2時間ぐらいしか寝てない」

出勤時間は、前日の仕込みがどこまで進んでいるかで変わる。前日にできていなければ、3時には店に入っていないと間に合わない。撮影日の前夜、帰宅したのは2時半だった。

毎日2時間ぐらいしか寝てない

2時間睡眠で動けるのか、という問いへの答えは短い。

もう、やるしかないでしょ。だって朝早いの俺しかいないんで

スープに、りんごが入る

寸胴に入るのはゲンコツと豚の背骨。水を張り、前日に下ごしらえしたスープと合わせていく。血抜きをしたゲンコツ、にんにく、ねぎ、人参、昆布──そして、りんご。

普通は入れないんじゃない、他のところは。りんご入れた方がうまいんで、俺的には

血合いの処理にも手順がある。生のまま抜く店もあるが、それでは明らかに遅い。一度ボイルしてから抜き、たわしで洗い、ばらして置いておく。この作業に充てるのは、客足が落ち着く朝8時半から9時半の時間帯だ。

ramen-shop-yamamura-prep.jpg

工程

中身

ベース

ゲンコツ・豚の背骨

香味

にんにく・ねぎ・人参・昆布・りんご

前日分

下ごしらえ済みのスープと合わせる

血合い

一度ボイルしてから抜き、たわしで洗う

寸胴が1個しかない

昼の営業は、スープが尽きた時点で終わる。だいたい1時半、遅くても2時半には無くなる。それでも夜もやってほしいという常連の声があり、半分の大きさの寸胴をもう一つ用意して、夜営業を継続できるようにした。

このデカいやつがもう一個置ければ、まだ全然違うかもしれない

ガス代は月に25万から30万円。都市ガスではないぶん、火力の条件も違う。寸胴が3つあれば順番に回せて休む時間も増えるのだが、今は1つでやっている。

普通盛りで150グラム

麺の普通盛りは150グラム。一般的な店の120〜130グラムより多い。大盛りは2玉で300グラム。ライスは小150g、中220g、大300g。朝の客は中ライスか、麺の大盛りを頼む人が多いという。

メニュー

価格

ラーメン

800円

みそラーメン

850円

ねぎラーメン

1,050円

岩のりラーメン

1,050円

ねぎチャーシューメン

1,450円

つけめん

800円

ねぎ丼

400円

TKG(玉子かけごはん)

350円

ぎょうざ

500円

TKGは、スタッフと客の要望を受けて後から加えたメニューだ。

「中毒になってる」──朝6時台の常連たち

6時。看板を出し、シャッターが上がると、すぐに客が来る。注文は食券制で、券を渡すときに「固め・濃いめ・多め」と好みを伝えるのがこの店の作法になっている。卓上にはおろしにんにくと豆板醤。

先週3回来たという63歳の常連は、製造業で6時半出勤。以前は相模原まで足を延ばしていたが、この店ができてからは通勤路で吸い寄せられるようになった。

通勤の通りがけでこの店を見ると、ついつい寄っちゃうんで。……中毒になってる

おすすめの食べ方も教えてくれた。ネギを麺に絡めて食べる。そこが最高です、と。

ramen-shop-morning-regular.jpg

2回目の来店だという別の客は、来る前にネットの評価を見て少し身構えていたという。

初めなんか評価とかみたら、ちょっと低かったんすけど。そこまででもないな全然って思って

7時52分、スタッフが出勤する。勤めて半年経っていないが、週に5日はここのラーメンを食べる。おすすめはねぎチャーシューメン、麺は固め。前職はカレー屋だったそうだ。店主のことを聞くと、こう答えた。

加藤さんはちょっと少年っぽい人です。すぐはしゃぎます

【加須】ラーメンショップ北川辺店──開店4時50分、創業24年

埼玉県加須市柳生。周りは田んぼしかない。その一本道沿いにポツンと建っているのが、ラーメンショップ北川辺店だ。店主は坂本テツオさん、53歳。創業は2002年、この6月で25年目に入った。

4時00分、駐車場に車が入る。4時20分、仕込み開始。4時26分、従業員が出勤。開店は4時50分。時間の余白がない。

秒でやっていかないと間に合わなくなっちゃうんで

起床は午前3時。毎日だ。

「炊き出しスープ」という考え方

ラーメンショップの豚骨醤油は、店ごとに味が違う。坂本さんはその理由を「炊き出しスープ」という言葉で説明する。

お湯を足しながら濃くなりすぎないようにして使ってる。全部手作りで、そのお店で作ってる

継ぎ足しながら濃度を管理する以上、味のばらつきはそのまま「その店のやり方」になる。北川辺の一杯は、こう表現された。

こってり感はあるんだけど、スープがそこまでドロっとしてなくて、飲みやすい食べやすい味になってると思います

米は熱湯で一気に炊き上げる。チャーシューは国産の肩ロースと豚バラの2種類で、前日にスープと一緒に炊いてある。味噌ラーメン用の合わせ味噌も自家製。厨房には店主の好きなジャズが流れている。

ネギは地元ブランド、しかも1日分では足りない

白髪ネギに使うのは、地元の「加須ネギ」。機械でカットし、分量別に小分けしていく。すでに山盛りだが、これで1日分ですかと聞かれると、答えは即答だった。

いや全然。営業途中でまた切り足す

隣でカフェも開ける「二刀流」

5時15分、坂本さんは厨房を従業員に任せ、隣のシャッターを開けに行く。カフェVanilla。通常は10時から17時の営業だが、朝はラーメン屋と並行して開けている。

中はバイクとショーケースが並ぶ、店主いわく「秘密基地」。カワサキのZは今年のモデルで、約200万円。10年ローンだという。

あとはローンを払い終えるまで、俺が生きてるかどうか

ショーケースの模型は、アルバイト従業員が趣味で作ったものを持ってきて飾ったものだ。

福島から、茨城から、トレーラーから

4時52分、開店から2分で最初の客が入る。チャーシューメン、麺固め、こってり。注文から着丼まで数秒だ。

この日いちばん遠くから来ていたのは、福島県から車で来た男性だった。朝2時前に出発。仕事とは関係なく、平日に休みを取って来たという。

スープを一口すすった時、うわー美味しいって思いましたね

6時前には、遊びの帰りに寄った若者2人。ネギチャーシューメンに黒酢と七味を足すのが好みだという。7、8回目という近所の男性は、この後パチンコへ向かった。茨城から来た大工は、これから現場だ。

朝起きてすぐは食べられないので、仕事に行く途中で朝食してます

ラーメン大盛りに、卓上のおろしにんにくを山盛り3杯乗せる客もいる。6時37分には超大型トレーラーが駐車場に入ってきた。大型車両が余裕で停められる駐車場は、この立地の強みでもある。

ピークは7時半から8時。8時を過ぎると会社勤めの客が引き、入れ替わりに荷下ろしを終えたトラック運転手が寄っていく。

「楽しみは絶対に裏切れない」

朝が早くても続けられる理由を聞かれて、坂本さんはこう答えている。

美味しいものを朝から食べられるお店がここにあることを知って欲しい

一日中働く人にとって、外食は数少ない楽しみだ、という認識がその根にある。

外食する時くらいは、美味しいものを提供できればと思ってやっています

物価高騰への向き合い方も、はっきりしている。食材のランクを下げて価格を据え置く選択は取らない。

少々値段が上がったとしても、やっぱりあの時の味が食べたい。どうせ変えるなら、さらにグレードアップとか。そのほうがお客さん楽しいと思うしね

一日中頑張ってる人が、一日の楽しみにしてる訳だから。楽しみは絶対に裏切れない

客からの「うまかった」「これで頑張れるわ」「また来るよ」という言葉について、こうも言っていた。

もう銭金じゃないよね、やっぱりね

2軒を並べてみる

ramen-shop-negi-ramen-bowl.jpg

項目

山村(東京・町田)

北川辺店(埼玉・加須)

開店

6:00

4:50

創業

9月12日オープンの新店

2002年

店主

加藤さん

坂本テツオさん(53)

朝の動き

睡眠2時間/2:52着

3時起き/4:00着

ラーメン

800円

1,000円

麺 普通盛り

150g

175g

麺 大盛り

2玉=300g

2玉=350g

席数

カウンター8

カウンター9+テーブル4

駐車場

3台

大型車両も可

体制

朝はワンオペ、7:52にスタッフ合流

店主+従業員、隣でカフェも運営

店舗情報

ラーメンショップ山村(東京・町田)

項目

内容

住所

東京都町田市木曽東1-36-7 中里ビル1F

営業時間

朝 6:00〜15:00/夜 18:00〜22:00

席数

カウンター8席

駐車場

3台

支払い

食券制

ラーメンショップ北川辺店(埼玉・加須)

項目

内容

住所

埼玉県加須市柳生204

営業時間

4:50〜18:00(祝祭日 10:00〜18:00)

定休日

日曜・第1月曜

席数

カウンター9席+テーブル4席

駐車場

大型車両も駐車可

創業

2002年

併設

カフェVanilla(通常 10:00〜17:00)

営業時間・定休日は動画撮影時点のものです。山村は昼のスープが尽きた時点で一度終了します。訪問前に最新情報の確認を。

動画で見る

ここまで書いてきたが、文字にすると落ちてしまうものが2つある。

ひとつは、北川辺の速度。注文を受けてから丼が出るまで、本当に数秒しかない。もうひとつは、朝6時台の山村で、客が黙って麺をすすっている時間の質感だ。会話はほとんどない。

特に45:49あたり、これから現場に向かう男たちが一杯を流し込んでいく場面と、53:23からの坂本さんの話は、ぜひ動画で。特に45:49あたり、これから現場に向かう男たちが一杯を流し込んでいく場面と、53:23からの坂本さんの話は、ぜひ動画で。

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