菜来軒の五目チャーハン

墨田区石原「菜来軒」──「笑顔を売ってる」81歳店主が鍋を振る町中華

東京都墨田区石原、カウンター8席+小上がり2席の町中華「菜来軒」。厨房に立つのは81歳の福澤和子さん。五目チャーハンの味付けは塩と味の素と胡椒だけ。「一番の売りは笑顔を売ってる」と言い切る店主の夜の営業に密着した。

東京都墨田区石原。カウンター8席と小上がり2席、間口の狭い町中華に、赤い「中華」ののぼりが立つ。菜来軒。厨房に立つのは福澤和子さん、81歳。まもなく82歳になる。

鍋を振り、レバーを揚げ、炒飯を返し、注文を取り、会話を返す。動画のなかで一番の売りを聞かれて、この人はこう答える。

笑顔を売ってる。

やる気の源は何かと聞かれると、返ってくる答えは白衣だ。「白衣がいつも私を元気づける」。そして——亡くなったときは棺に必ず白衣を入れるように、と子どもに言ってあるという。

動画の目次

時間

内容

1:17

大家さんが語る菜来軒

2:08

エビ・レバーの仕込み

5:54

炒飯の「アタマ」を作り置き

7:18

暖簾を出して営業開始

7:44

メニューと価格

10:16

奄美大島から東京へ

11:05

マレーシアからの常連

13:07

名物・茄子肉炒めと隠し味

17:06

五目チャーハンは塩と味の素と胡椒だけ

26:10

ルースー麺

26:58

店主インタビュー──白衣と笑顔

奄美大島から、東京の「菜来軒」へ

和子さんは奄美大島の出身だ。なぜ東京に出てきたのかと聞かれて、理由はあっさりしている。

うち、兄弟がみんな菜来軒っていうラーメン屋をやってて。高校を卒業したら、兄弟はみんな東京に。

菜来軒は一軒の屋号ではなく、兄弟たちが東京で構えた店の名前だった。和子さんも高校卒業と同時に、その菜来軒に就職している。憧れて出てきた東京は、しかし「大変だった」と本人は振り返る。

店の歴史を教えてくれるのは、動画の序盤に登場する大家さんだ。45年の付き合いになるという。

50年くらい前に来て、菜来軒の3代目で。あの奥さん、ご夫婦が。

大家さんの一番のおすすめは、ラーメンと炒飯。「ここのラーメンの味が好きなの。コテコテしてなくて美味しいから」「あとはね、やっぱり炒飯かな。奥さん味付けうまいよね」。材料が余った日には、和子さんがそれで何か作って大家さんの家まで届けてくれる。翌日の朝昼晩ぶんになる、という話まで出てくる。

墨田区石原の路地に立つ菜来軒の看板

開店前の仕込みは、ほとんどが「並べておく」作業

営業は11時半から。それまでの厨房は、注文が入ってから間に合わないものを、先に全部済ませておく時間だ。

エビ——卵白を入れ、片栗粉を混ぜ、下味をつけて容器へ。

レバー——「とても綺麗で新鮮なレバー」を丁寧に捌き、カットして、こちらも卵白と片栗粉でよく絡める。レバニラ用だ。

ピーマン・白菜・肉——ピーマンは細切り、白菜はざく切り、肉は一口大。切ったそばから容器に入れ、ラップをかけていく。

レバーに卵白と片栗粉を絡める

そして、この店の仕込みでいちばん目を引くのが炒飯の「アタマ」だ。卵を大きく焼き、かまぼこなどの具と合わせて、小分けにトレーへ並べておく。注文が入ったら、これを最後に乗せるだけにしておく。

これ(炒飯の)あたま。かまぼこをこう準備しておかないと。人数少なくてやるから大変。
炒飯の「アタマ」用に卵を焼く

黒電話が鳴って、暖簾が出る

仕込みが終わるころ、厨房の黒電話が鳴る。予約か、出前か。受話器を置いた和子さんは暖簾を持って外に出て、赤いのぼりの横に掛ける。ここからが営業だ。

動画が追っているのは17:30からの夜の部。19時になるころには、カウンターは常連で埋まっている。

項目

内容

営業時間(平日)

11:30〜14:00/17:30〜22:00

営業時間(土日祝)

11:30〜22:00

席数

カウンター8席+小上がり2席

菜来軒のメニュー

メニューは町中華の王道が並ぶ。値段は動画に映っていたものだ。

メニュー

価格

菜来軒セット Aセット

1,200円

菜来軒セット Bセット

1,000円

ランチセット

1,000円(税込)

五目チャーハン

1,000円

肉茄子炒め

900円

ルースー麺

900円

餃子

3個 300円/5個 500円

五目チャーハンに入れるのは、塩と味の素と胡椒だけ

来店したお客さんが頼んだ五目チャーハンを、和子さんが作る。油を引き、ご飯を入れ、卵を2つ落とし、鍋を返す。味付けの説明は、拍子抜けするほど短い。

塩と味の素と胡椒しか入れない。他は何にも入れない。
湯気のなかで鍋を振る

具と合わせて炒め、薬味を入れ、胡椒で締める。最後に、仕込んでおいたアタマを綺麗に並べて完成。1,000円。

3回目の来店だという常連は、その「何も入れない」味についてこう話す。

塩加減とか絶妙すぎて、めちゃくちゃハマってるんですよね。

別の客も、ほぼ同じことを言っている。「難しい味付けじゃなくて、シンプルなんですけど、旨みとかコクとかすごいあるんで」。

名物は、茄子肉炒めと「隠し味」

常連にも店主にも一番に名前が挙がるのが茄子肉炒め(900円)だ。肉から炒め、ピーマンと茄子を入れ、調味料を加えて絡める。その途中で、和子さんが何かを一振りする。

これを入れると全然味が違う。

中身は明かされない。ただ、出てきた皿を一口食べた客は「味付けがしっかりしてご飯にあう」と言い、そこから箸が止まらなくなる。

餃子は3個300円、5個500円。並べて水を入れ、蓋をして蒸し、水を切ってから油を落とす。パリパリと音がするまで焼くのが合図だ。

焼き上がった手作り餃子

この日のカウンターでは、エビマヨとエビチリをめぐる論争も起きていた。前回エビマヨ、今回エビチリを頼んだ客に、どちらが上かと聞くと——

いやぁ、ちょっともう同率一位で。同率一位っす。

そして和子さん自身がすすめるのがルースー麺(900円)。とろみのあるあんかけが、ちぢれ麺によく絡む。ピーマンのほろ苦さと、透き通ったスープ。

和子さんおすすめのルースー麺

マレーシアからの常連、坂上忍、そして高校生

この日カウンターに座ったのは、マレーシアから来た常連客だった。瓶ビールに餃子、なす肉炒め、炒飯。酒を注ぎ合って乾杯し、一口食べて「あぁ美味い!!」。

壁の上のほうには、来店した芸能人の写真がずらりと並ぶ。動画で名前が出てくるのは坂上忍さん。近くのスタジオでの芝居の稽古の帰りに、よく寄っていたという。「去年の3月3日に町中華のチャンピオンになった」という話も出てくる。

制服姿の高校生2人組も、常連だ。片方は五目チャーハン、片方はエビマヨ派。学校が近いのだという。和子さんが店で一番面白いことを聞かれて挙げたのも、この層だった。

若いカップルと喋ること。また来てねって。孫みたいなもんだから、孫がいっぱいうちはいるから。

旅行に行けば、店で会うお客さんに土産を買ってくる。この日は淡路島の土産が配られていた。

白衣を、棺に入れてほしい

81歳。まもなく82歳。元気の源は何か、と聞かれた和子さんの答えは、健康法でも食事でもなかった。

白衣。もう人間変わっちゃう。

白衣を着ると人が変わる、という意味だ。そして、その先がある。

ずっと白衣の生活だから、亡くなった時は棺に必ず白衣を入れるようにって、子供に言ってある。

店の一番の売りは何かという問いへの答えが、冒頭の「笑顔を売ってる」だ。いつも来てくれる客への一言を求められると、こう続けた。

いつもありがとうございます。助かります。元気をいつもお客さんからいただいてます。またよろしくお願いします。

最後に、今年の抱負を聞かれて。

82歳を元気で迎えたいです。またがんばります。
取材の最後、店先で笑う福澤和子さん

店舗情報

項目

内容

店名

中華料理 菜来軒

住所

東京都墨田区石原4-19-4

営業時間

平日 11:30〜14:00/17:30〜22:00 土日祝 11:30〜22:00

席数

カウンター8席+小上がり2席

店主

福澤和子さん(動画撮影時81歳)

名物

五目チャーハン、茄子肉炒め、ルースー麺、餃子、エビマヨ

営業時間・価格・メニューは動画撮影時点のものです。訪問前に最新情報の確認を。

動画で見る

ここまで文字で書いてきたが、81歳の鍋さばきだけは、文字にすると痩せる

立ち上がる湯気、片手で返る中華鍋、揚がったレバーが油から上がる角度。そして、注文を受けながら常連と交わす会話のテンポ。あれは映像でしか伝わらない。

五目チャーハンを作る17:06以降と、白衣の話が出る26:58あたりは、ぜひ動画で。

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